日本美術の根底には「遊び」がある

オリーブ/経営/調べて書く
  1. ホーム
  2. オリーブ
  3. 日本美術の根底には「遊び」がある

 明治のチョコレートのTVCMで「ワインでいうぶどうそれがカカオ。だから、産地にこだわりぬきました」という名コピー。ある程度消費者が商品に慣れてくるとホンモノ志向というか、ちょっと変わったこだわりの商品が生まれてくる。

 ここで、「ワインでいうぶどう」と言っているが、ワインの場合は「セパージュ」と言うみたいですね。セパージュは「メルロー」とか「カベルネ」とかのブドウの品種を指すものだ。一方、コーヒーなら「グアテマラ」「ブルーマウンテン」?しかし、実はこれはブランド名らしい。正確にはアラビカ種とカネフォラ種に大別され、細かい分類があるという。まあ、カカオに品種があるのかは知らないが。。。産地とは違う。

 言いたいことは、この些細な事に対してではない。このコピーは実に見事。見事な出来栄えである。感動すら覚えた。自分が光合成のメグミでやりたい事がここにある。「セパージュ」なんて、言っても多くの人にとってはポカンだろうから。名コピーは必要不可欠だ。

 名コピーというわけではないけれど、26日の私の履歴書は美術史家の辻惟雄(つじ・のぶお)。『奇想の系譜』という著作で有名らしい。彼も日本美術の根底に「遊び」を見いだしたという。これも見事だと私は感じています。

前略、

 仙台にいたこと模索し続けていた、「日本美術とは何だろう」というテーマにようやく答えをひとつ見いだした。きっかけになったのは、オランダの歴史家、ヨハン・ホイジンガの名著『ホモルーデンス』の一説だった。

 「日本人の遊ぶについての考え方を、もっと詳しく規定していくと、おそらくいまここでなしうることよりもさらに深く、日本文化の神髄まで考察を進めることができるであろう」

 目からウロコが落ちた。「遊びなんだ」とひらめいた。まじめさや厳しさといったイメージでくくられることが多い日本文化の根底には遊びの精神がある。奇想の絵師たちの作品にも遊び心が満ちている。江戸絵画のみならず日本美術全体を見渡しても遊びひゃ重要なキーワードだ。

 研究と考察を深めていくと遊びから派生する笑、飾り、見立て(パロディー)。風流、洒脱などそれまでの自分なりの美術研究で漫然と心に浮かんでいた言葉が、俄然、精彩をおびて立ち上ってきた。

日経新聞朝刊 辻 惟雄 『私の履歴書』 2021年1月26日