昨年から、ニホンミツバチの温度測定をおこなっている。
1 目的
巣箱を開けず(頻繁に巣箱を開け過ぎると逃去しやすい特性)に以下の変化を知りたい。
1)春1-2週間に1-3回しか発生しない分蜂の事前予想(2℃上昇を捉える)
2)夏の高温による巣落ちの予防(60℃以上だと巣材の蜜蝋が溶け始める)
3)春から秋の逃去や病気を知る(ミツバチが少なくなると巣温が下がる)
4)その他の異変を検知
いくつかの先行研究では、内部温度は35℃一定と報告されていますが、自分の半年の研究では環境温度の影響を受けて、巣内の蜂球部は大体15-35℃に保たれています。厳寒期を除けば25-35℃。周囲の環境温度と蜂数+エネルギー源のハチミツの量で変わるのでしょう。ミツバチ科学に報告された長期の巣の温度変化をとらえた秋元さんの論文*1では、
春の巣別れ、分蜂の際はこの35℃を超えて、35.5℃まで上がり40-100分の間の短時間のうちに37℃まで達する。たった2℃なのですが、監視カメラで見る限り、大変な騒ぎです。質量が大きい恒温動物のヒトでも平温(36.5℃)と発熱時(38℃)では相当の違いがあると感じていただけると思います。分蜂時には、巣箱から半数のハチが旧女王蜂について巣立ちます。そこで、周囲の木の幹や電柱に蜂球をつくったところを、強制捕獲といって網で捕獲し、巣箱に強制的に閉じ込め、営巣するように仕向けるのです。この強制捕獲の準備が重要で、網などの準備のほかに周囲の住人に「分蜂ですよ。驚かないで」と知らせることが重要なのです。
そこで、2℃の温度上昇の1/10の精度の0.2℃を高精度に測定できないかというニーズが生まれます。
温度センサー位置の工夫や計算(最小二乗法など)であるていどは誤差を減らすことはできると思います。しかし、本質的には温度上昇という「相対的」な指標を感変える時に、何らかの工夫が必要だと思います。
<今回の目的>
前回の『初期データ取得その3』で、①センサーの縦位置(Z軸)を一定位置(天板から54cm)にすることに変更し、また、②測定間隔は5minとすることとした。今回はこの条件で1週間程度の長期的に不具合がないかを調べる。
2 測測定系
2-1 測定対象M2304b群 (重箱3段)
2-2 ワイヤレス温度測定器 無線データロガー Air Logger WM2000(アドバンテスト社)
温度測定範囲 -100〜+1300℃
温度測定精度 ±0.2%+1.3℃
測定間隔 5min,
2-3 熱電対 Kタイプ (+極:クロメル、-極:アルメル) 長さ54cm 竹ヒゴ固定
2-4 PC Lenovo G565 Windows 7
3 初期データ
3-1 1H/10sec 済み
3-2 3H/10sec 済み
3-3 10H/1min 済み
3-4 168H/1min 今回
監視カメラで観察(赤外線ライト付き)
4 結果
4-1 1H略
4-2 3H略
4-3 10H(±0.3℃)略
4-4 158H 1W
Ref-1ch | RF-2ch | RM-3bh | RB-4ch | LB-5ch | LM-6ch | LF-7ch | |
Ave | 21.68 | 23.61 | 21.07 | 25.11 | 26.38 | 25.73 | 26.12 |
Max | 28.9 | 33.4 | 34.8 | 31.8 | 33.1 | 32.8 | 33.6 |
Min | 15.2 | 17.6 | 24.8 | 17.1 | 15.4 | 13.9 | 13.8 |
STD | 3.66 | 2.54 | 1.35 | 3.54 | 4.02 | 4.24 | 4.44 |
Ref-1ch | RF-2ch | RM-3ch | RB-4ch | LB-5ch | LM-6ch | LF-7ch | |
Ave | – | 6.94 | 10.54 | 3.43 | 4.70 | 4.05 | 4.44 |
Max | – | 13.8 | 17.0 | 8.9 | 9.6 | 9.0 | 9.7 |
Min | – | 0.3 | 4.1 | -0.2 | -2.7 | -3.6 | -4.0 |
STD | – | 2.56 | 3.11 | 1.55 | 2.03 | 2.06 | 2.19 |
5 結論
”1 目的”で今回の温度測定の目的を以下のように示し、結果から今回の目的には使えそうだということが判明した。
1)◉春分蜂の事前予想(2℃上昇を捉える)→実験3で10H以内なら±0.3℃以内
2)◉夏の高温による巣落ちの予防(60℃以上だと巣材の蜜蝋が溶け始める)→全体を網羅するセンサー配置
3)○春から秋の逃去や病気を知る(ミツバチが少なくなると巣温が下がる)→おそらく検出可能
4)△その他の異変を検知→実地検証
特に、5月3日と5月8日にはこの時期にしては急激な低温に見舞われた。環境温度を測定するために、ユーティリティーBOX内に設置した基準センサーRef.(ch1)は良く環境温度の変化に追従している。一方、巣箱内に存在しつつも、少しだけ離れた位置にセンサーがあると考えられるch4-7の4chは環境温度、すなわちRef.1に追従する動きをしている。一方、RM(ch3)は環境温度に影響されつつも、30-35℃に安定している。RF(ch3)は環境温度に追従するRef4-7とRM(ch3)の中間的な動きを示すことが確認できたことが興味深い。特に、雨模様だった05/08のデータは晴れていて低温だった05/03に比較して、CH5-7の時間的なばらつきが大きい。巣のない左側に設置したch5-7(LF,LM,LB)は、その原因を明らかにする必要があるかもしれない。また、視点を変えてみるとch5-7のような、巣板に近いが2-3cm離れているセンサーは、今後の巣板の成長との関係を検討することで、新たに「巣の成長状態を知る」という指標に使えそうだ。
*1 秋元徹(2000)『解放空間に営巣したニホンミツバチの越冬期における巣内温度』.ミツバチ科学20(1)